度々私事で大変恐縮ですが、全盲娘の海外初一人旅、コスタリカ環境保護ボランティア紀行、『点字ジャーナル』連載の第6回(最終回)です。お付き合いくださった皆様、ご意見ご感想、温かい励ましをお寄せくださった皆様、本当にありがとうございました。
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★20歳の春、忘れられない3週間inコスタリカ★
(6)「途上国」ということ(最終回)
いま、3週間のコスタリカ滞在を終えた私の胸には、ひとつの大きな疑問がある。
「途上国っていったいなんだろう?」
コスタリカは途上国だ。治安が良く、政治や経済の面でいくつも先進的な政策を行っているが、欧米や日本と比べたら途上国と言わざるを得ない。
しかし、何をもって途上だと言うのだろう。
たしかに、私が泊まったボランティアハウスのシャワーは水、しかもたびたび出なくなるので、翌朝までシャワーを浴びられないこともあった。洗濯機は私にとっては生まれて初めて見る2層式。30度を越す暑さのなか道端に座り込んで、2時間待ってやってくるバスにエアコンはない。
しかし、私たち先進国から来たボランティアが、そんなことに一喜一憂しているかたわらで、ティコス(コスタリカ人)たちはのんびりコーヒーを飲みながら笑い合い、ふらりとお互いの家を訪問し、夢中でサッカーを観戦している。日本語の挨拶を覚えてくれたり、オセロのようなゲームのコマに触ってわかる傷をつけてくれたり。物理的に快適とは言えない環境が、物への執着を和らげ、人をおおらかに、人間関係を密にするのだろうか。根本的な温かいものがそこにあり、なぜこの人たちの住む国が何か不完全なもののように言われるのか腑に落ちなかった。
思えば、物は本来人間の生活を補うために編み出されたはずなのに、いつしか立場が逆転し、物には出来ないことを仕方なく人間が補うようになったのではないか。そして物の発達によって効率の良い生活が実現すればするほど、そうでないことが許せなくなり、人間にさえ物に負けないくらい効率の良い存在であることが求められる。結果、人同士の煩わしいコミュニケーションが減り、出来るだけ1人で早くなんでも出来ることが良しとされ、人々は同じ空間にいるにも関わらず孤立していく。
食事時には特に、そう感じずにはいられなかった。なぜかティコスたちとボランティアは別のテーブルについており、ティコスたちがおしゃべりに興じている横で、私たちボランティアはスマホやテレビばかり見て、会話は途切れがちだったのだ。言語も文化も考え方も違えば、話すのが億劫になったり、時には痛みを伴うことだってある。それでも、1人で画面に向き合うより、限られた時間しか一緒にいられない人々と語らうほうが大切ではないか。その構図に抗いきれなかった反省をこめて思う。
いまの私には、途上国という言葉が単にGDPがどうの、インフラがどうのといった、事実だけを意味しているとは思えない。物質的に豊かなことこそが発展の証であり、しかも、そうでない国の人たちは知能面や精神面でも劣っているという、恐ろしい偏見が潜んでいるような気がするのだ。
コスタリカに発つ前、私のなかにはたしかにそんな偏見があった。だからこそ、ホームページの「途上国でボランティア」というフレーズに、なんの違和感も覚えなかったのだ。彼らの私に対する自然な態度に驚いたのだって、その裏返しと言っていい。しかし実際は、当たり前だが、助けられ教えられ続けていたのは私のほうだった。自然の知識や、現地での暮らし方もそうだが、何よりも他者への思いやりや心の持ちようについて、多くのことを教わった。「途上国でボランティア」は、自分が楽しい体験をさせてもらう気満々なのに、あくまでボランティアの名を借り、無遠慮な好奇心丸出しでやってきた私を、それでも「人生最高!」と言って受け入れてくれた彼らの器の大きさがあってこそ成り立つのではないかと、なかば本気で思ったほどだ。
この文章を書くために最新の機械をいじりながら何を言うか。たった3週間で、コスタリカの何がわかる。そんなふうに突っ込まれたら、理路整然と答えることなどできない。それでも私は、20歳の春に自らの足で異国に向かい、素晴らしく温かい人々と出会い、自分の身体で感じて獲得したこの視点に誇りを持っている。ちょっぴり恥ずかしいけれど、ここで皆さんに読んでいただけて良かったと思う。
この先もこの視点を変わらずに持ち続けるのか、違う考えを持つようになるのかはわからない。でも、いまこの瞬間考え感じていることを忘れることはない。今回の旅を通じて、将来日本とラテンアメリカの間にある環境問題に取り組むという夢を与えられたからだ。コスタリカと何かしらの関わりを持ち続け、何年かしたら、私はどんな文章を書こうと思うだろう。いまから楽しみだ。
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★20歳の春、忘れられない3週間inコスタリカ★
(『点字ジャーナル』連載(全6回) 2017年9月号~2018年年2月号)
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(1)旅の始まり https://unileaf.org/4903
(2)吠え猿の森 https://unileaf.org/5033
(3)モンテ・ベルデ https://unileaf.org/5099
(4)コスタリカで考えたバリアフリー https://unileaf.org/5176
(5)蝶を追って https://unileaf.org/5271