絵本紹介コーナー「Suzu’s セレクト」
第3回にお送りするのは、ジェームズ・サーバー文『たくさんのお月さま』(1943年)。アメリカからの絵本で、優れた絵本に贈られるコールデコット賞受賞作品です。
今回の作品は文字が多めで48ページ。少し大きな子向け、または大きく“なってしまった”大人向けでもあるかもしれません・・。
ユーモア作家であったサーバーのウィットにクスッと笑ってしまうこと間違いなし。そして笑いだけではなく、人生について気づきを与えてくれるお話でもあります。
主人公は10歳のお姫さま。びょうきになってしまったレノアひめの「お月さまがほしい」という希望をきき、王さまはおかかえの大臣、魔法使い、数学の大先生を呼びますが、3人とも首をたてにはふりません。
大臣によると「月は、三万五千マイルはなれたところにあり、レノアひめのへやよりおおきい」とのこと。魔法使いによると「月は、十五万マイルも遠いところにあり、城の二倍の大きさもある」とのこと。数学の大先生がいうには「月は、三十万マイルのかなたにあり、国のぜんたいの半分もある」ので、月はだれにもとってくることができないとのこと。
王さまは、「月が手に入らなくてはひめの病気がよくならないのに、だれもとってくることができない。それどころか、頼むたびに、月はますます大きく、遠くなっていく」と悲しみます。
それを聞いた道化師は少し考えて、こう答えました。
「みなさん賢い方ですから、たぶんみなさん正しいのでしょう。みなさん正しいとなれば、月というのは、ひとりひとりが考える通りの大きさで、ひとりひとり考えるだけ遠いということになります。となれば、レノアひめさまが、月をどのくらい大きく、またどのくらい遠いと考えているのかうかがわなくてはなりませんね」
ここからもまだまだお話はつづき、なるほどなあと唸らせるお話があるのですが、それはお話のなかで。このお話はお月様についてのお話ですが、人が心からほしいもの、たとえば「幸せ」や「愛」の形なども、ひとりひとり異なるということを思い出しました。
そしてもう一つとっても好きだったのは、何といっても著者のユーモア!大臣、魔法使い、数学の大先生はそれぞれ「月はむり!」と王さまに言う前に、自分の今までの功績を話すのですが、その功績の一覧が面白くてしょうがありません。特に数学の大先生がこれまで解いてきた問題「どこから上を『高い』というのか、かねで買えないものの値段(!)、にっちもさっちもいかないときはどっちへいくべきか」、教えてほしいものばかりです。
ページ数が長い分、推薦文もだいぶ長くなってしまいましたが、多くの方にこのお話が届くことを祈っています。小さい読者にとってはとても痛快な、大きい読者にとっては忘れていたものを思い出す本になってくれると信じています。
Suzu. S