点訳に際して


この手引きは、本プロジェクトのアドバイザーである国立特別支援教育総合研究所の大内進先生、星祐子先生両先生にご指導をいただき作成しています。


基本的な考え方

UniLeaf Books は、就学前から小学校低学年の、点字を習い始めの学習者を対象としています。幼い子どもが覚えたての点字を使い、自分で読み進む楽しさを味わえるよう願い、提供される絵本です。このため、彼らへの教育的な配慮も大切にしつつ、正確な点字表記が求められることになります。

UniLeaf Booksにおいては、原則は点字表記を優位とします。
☆ ただし作者の意図的な表現については、作品の鑑賞という観点から、その意図や原本の雰囲気を尊重します。あらゆる点字符号を検討し、よりよく伝えられるものがないかを考えます(習っていない符号の使用もここでは可)。
☆ 一方、作者の原文にないもの―語の注記等―については、楽しく読むため、特殊記号は使いません。
☆ 形の上で変則的なもの —— スペースの制約による頻繁な行移しや、段落始めの空け無し等 —— については、特に問題や戸惑いがなさそうなら、点字表記に則った表し方でよいでしょう。

日本語の文章はあいまいで、自由度が高いものです。特に絵本には統一されたレイアウトがなく、マニュアルにはなじみません。外国語翻訳の場合も訳者によって仕上がりが異なるように、点訳の場合も作者の意図をどう捉えるか、意図的なのか単なる変則か、という判断は点訳者に委ねられます。この絵本の目的は、友だちと一緒に楽しむということであり、原文の形どおりという原則にとらわれ過ぎないことも必要でしょう。実際、何を伝えるかによってどちらでもよいことはあり、正解は一つではありません。最も大切なことは、その本の中で統一がとれているということです。

また、見えない子どもに絵の楽しさを少しでも伝えたいと、原本ページに説明書きのシールや絵の輪郭線を入れたいという気持ちは誰もが抱くものですが、シールが光ったり、もとの印刷が多少とも見づらくなったりと、他の子どもには使い難い状況が生じかねません。
UniLeaf Books は点字使用児だけのためではなく、「皆と一緒に」というユニバーサルデザインの趣旨と目的を考慮して、原本ページに手を入れることは差し控えます。

従来の、本文に透明シールを貼り付けた絵本との違いについては、大内進先生の談話を下記に引用しますので、ご参考ください。

「シール貼り付け方法が悪いということはないと思いますが、シール貼り付けをしないのは、原本の表現を損なわないようにするという点に意味があるように思います。
透明でもシールを貼ったり、点字が打たれていたりすると、原本に描かれている内容がとらえにくくなってしまうことがあります。
また、シートが別になっていると、原本のレイアウトの影響を受けずに読みやすい点字文章を記すことができます。
逆に透明シールの場合は、原本のレイアウトを点字読者に気づかせてくれるということがいえるかもしれません。」(09.2.27)


打ち始める前に

まず絵本を通して読み、構成を把握して、全体として統一感のある点訳となるよう、計画を立てましょう。
あいまいな箇所は、予め打ち合わせができるとよいでしょう。後日、大下より専門の先生に確認し、UniLeaf Books の点訳の考え方としてフィードバック、蓄積していきます。
ただし、細かいレイアウトなどは点訳者の感性によるところが大きいのも事実です。あの時こうしたから必ず、というよりは、作者の意図を汲み、その絵本絵本にふさわしい仕上がりという視点からも考えてみましょう。

<全体>

右空き(横書き)の本と左空き(縦書き)の本、透明シートはどちらに入る?

本文が横書きの場合 ・・・ 透明シートは見開きの右側。
本文が縦書きの場合 ・・・ 透明シートは左ページの上に乗せる。シートの右端にリングの穴が来ることを考え、余白に多少の余裕を持って打ちましょう。(右端に 1cmあればギリギリ大丈夫)

シートの余白は?

上、左ともに2.5cm程度。
右は通常、シートの右端いっぱいまで点字を打ち、それから次の行に移る。原本の行移しに合わせたり、点字文の視覚的感覚的な美しさで、右を大きく空けたまま次の行に移らないように注意する。
ただし、歌などリズムの大切な箇所、リング穴が右に来る場合はこの限りでない(それぞれの項目参照)。また、本文が長く、シート1枚に収める必要のあるときも、この限りでない。

1行空けにする? 空けずに打つ?

1行空きは、習いたての子には分かりやすく魅力的。
くっついているとどこを読んでいるか分からなくなったり、③⑥の点と次の行の①④の点が混ざったりする。
3年生くらいで、もう良く読めると、空けるとかえって読みにくいことも。
本の内容から判断し、「ノンタン」くらいの簡単さなら一行おきに打つ。

本文が長いページは、両面打ちにする? シート2ページにする?

原則、見開きに挿入するシートは1枚とする。(文が全体に長めの本は、初めから両面打ちの機器を選ぶとよい。)
1枚に収まらない場合の対応としては、優先上位から、
1.上下左右の余白を削る。
2.2~3行なら、次ページの冒頭に入れる。
3.やむを得ない場合はシートを2枚にする。

見開きのページの変わり目で、点字文を1行あける?

大まかな目安として、その見開きいっぱいに一つの絵が描かれていれば、本文が2ページにまたがっていても一塊と考え、1行あけずに続けて打つ。
左右のページに一つずつ絵があり、それぞれに文章がついているときは1行あける。
また、見開きに3個以上の絵があり、それぞれに文が付いている場合も、絵と文を1セットとして1行ずつあけて打つ。
一つの絵の中に本文の塊が複数ある場合や、1文だけ離れている場合の考え方としては、先に絵があって文が分かれているのか、作者が何かを象徴するために分けているのか、本全体の中での位置づけを考え、点訳者が判断する。こういう方針でやった、著者の意図をこう考えたと説明できればよい。ただ、点字を読む子どもにとって、どうしてここが空いているのかわからないと点訳者の押しつけになってしまうので、解釈をするなら本全体で統一が取れていることが必須。

「終わり」を示す25点の線は入れる?

記号はできるだけ使わないを基本とするので、入れない。


<表紙ページ>

タイトルは?

枠で囲み、ページのやや上部に打つ。

作者名は?

タイトルの枠から1行あけて打つ。行間の広いタイプライターは適宜。目的は、枠と混ざらないこと。

作者、画家、翻訳者等の書き方

例)姓□名□□ブン□エ

語間の記号「・」、「=」、「/」等は、いかなる場合も、上記のようにマスあけで統一する。
名前の後ろで2マスあけるのは、名前の続きでないことをはっきり伝えるため。
「ブント□エ」「ナカガワ□リエコト□オオムラ□ユリコ」等は原本どおりに打つ。
「サク」、「ブン」、「エ」、「ガ」、「ヤク」などの語は、原本どおりに打つ。これらの語が人名の前なら、原本どおり前に入れて打つ。
位置は、一番長い行を枠の中心に合わせて決め、他の作者名はそれに左端を揃えて打つ。

出版社名は?

省略する。

表紙のページに、本文のテキストの始まりが入っているときは?

次ページの頭に入れる。1行あけて次ページの本文を打つ。

献辞はどうする? 1ページ使う?

表紙ページの一番下の行に入れる。
長い場合は、タイトルページの情報が過剰にならないよう、ページを別に設ける。


<本文>

本文テキストの段落の始まりが1マス下がっていない。点字も下げない?

点字の約束に従い2マス下げ、行頭3マス目から打ち始める。
点訳者が内容から段落の変わり目を勝手に判断することはできないので、文が左の頭から始まっているときは、短くても一文で一段落と考えて行を替える。

本文が見開きに一語だけ。そこだけタックシールにしてよい?

シートを使用するなら、全体を通してシートにする。
混在すると混乱を招くため。

本文中に大きな文字が出てきたら?

原文の雰囲気をできるだけ伝えるよう、(習っていなくても)第1指示符を使う。第1指示符はかぎカッコの中に入ってもよい。

変則的な1マス空け、点訳文も空ける?

どちらでもよい。
作者の意図を汲む → ○、点字表記のルールどおり → ○。
本全体で統一する。
例)クマ でいい。クマ といえ。
 (○) クマ□デ□イイ。□□クマ□ト□イエ。
 (○) クマデ□イイ。□□クマト□イエ。

数を表す言葉がかな表記のときは?

数字でもかなでも、どちらでもよい。
1冊全体を通し数字その他の扱いを見て判断、ただしどちらかに統一する。
例)いちじかん ひゃくえん。
 (○) 1ジカン□100_エン。
 (○) イチジカン□ヒャクエン。

注記があるときは?「チュー」として下に打つ?

原則として、特殊記号は使わない。
短いときは(  )、つまり②③⑤⑥の点を使い、本文中のその語の直後に挿入する。
長めのときは、本文中には印を入れず、ページの一番下段に入れる。
例)□□パピルス□②②②□ナイルガワ リューイキ、・・

見開きに絵だけで、文がないときは?

シートが抜けているのか不安になるので、点訳者注を付け簡潔に絵を説明する。

点訳者注を入れるときの留意点は?

点訳者注は、本の楽しみをそぐことになりかねないので、必要最小限とする。
そこのページだけでなく、本全体をよく読み、過不足のない最適な表現を考える。
突然説明文が来て絵本の世界観を損ねないよう、絵本の雰囲気に合わせた表現を心がける。
短いときは、本文中の語の直後に挿入する。
状況説明のように長くなるときは、挿入符内を体言止めにせず、文章にする。
例)(×)大きな犬の絵
  (○)大きな犬の絵がかかれています。

絵の中の吹き出しや、車両の名前等の書き込みはどうする?

同じ言葉が本文中にも出ていたり、なくても本文を理解するのに問題がなければ、省略する。
その言葉が本文の流れの手がかりになっている等、本文の理解に必要なら、適切な箇所に、本文とは違うことがわかるような形で、挿入する。
その言葉だけを見て機械的に置き換えるのではなく、他のページでの扱いや、本全体の中での位置づけをよく検討し、総合的に判断する。

擬音語、擬態語の繰り返しの扱いは?

作者の意図を汲んで、原文どおり打つ。
例)くるくる  ・・ クルクル
  くる くる ・・ クル□クル(作者の意図を汲んで)
特に長い場合は、読みやすさを重視し点字のルールに従って空ける。
例)ブクブクブクブク ・・ ブクブク□ブクブク

その他の繰り返しは1マス空ける?

作者の意図を汲んで、原文どおり打つ。
例)おやおや  ・・ オヤオヤ(文脈の中で、間投詞+間投詞のつながりではないので空けない)
  よしよし  ・・ ヨシヨシ
  さあさあ  ・・ サアサア
  さあ さあ ・・ サア□サア(作者の意図を汲んで)

原文が、句点「。」の代わりにピリオド「.」、読点「、」の代わりにカンマ「,」を使っているときは?

それぞれ、読点、句点に入れ替える。

中点「・」は?

マスあけにする。
例)た・す・け・て・・・ → タ□ス□ケ□テ□・・・

台詞のかぎカッコ、及び前後の文の扱いは?

基本的に原文どおり打つ。

① かぎカッコが単独
   例)〈文頭〉「うまい!」
     □□「ウマイ!」

② かぎカッコが地の文の中
   例)こいぬは 「わん、わん、わん」と ほえたてました。
     コイヌワ□「ワン、□ワン、□ワン」ト□ホエタテマシタ。

③ かぎカッコが文頭で、地の文が続くとき
   例)「いっしょに どうぞ」と、ぐりと ぐらは、かごをみせて さそいました。
     □□「イッショニ□ドーゾ」ト、□グリト□グラワ、□カゴヲ□ミセテ□サソイマシタ。

④ かぎカッコが地の文の中だが、前後と行が異なる場合
   例)それから、
     「ぎゅうにゅう ください」
     と、いいました。

     □□ソレカラ、
     □□「ギューニュー□クダサイ」
     ト、□イイマシタ。

⑤ かぎカッコの中で頻繁に改行されているときは、通常の文と同じように改行する。
   例)「えー、ともだちやです。
     ともだちは いりませんか。
     さびしい ひとは いませんか。
     ともだち いちじかん ひゃくえん。
     ともだち にじかん にひゃくえん。

   □□「エー、□トモダチヤデス。
   □□トモダチワ□イリマセンカ。
   □□サビシイ□ヒトワ□イマセンカ。
   □□トモダチ□イチジカン□ヒャクエン。
   □□トモダチ□ニジカン□ニヒャクエン。
原文どおり改行が基本。1冊の中で、頻繁に改行/改行なしで続けて打つ、が混在していてもよい(原文どおりですと説明がつく)。
ただし、本全体の「  」の扱いから判断して、作者の意図が、1文ずつきちんと読んで欲しい、独立させたいと考えられるなら行替え、それほど意識していない、スペースの関係で行替えしているようなら続けて打つ、も良い(そういう方針でやったと説明できればよい)。
1冊の中での方針は統一すること。

本文中の歌や詩、リズムを特に意識して書かれているような箇所は?

作者の思いを汲み、リズムを損ねないよう配慮して、原本どおり行を移しながら、打つ。
前後一行ずつ空け、全行左から4マス下げ、行頭5マス目から打ち始める。

看板や手紙は?

本文とははっきり区別がつくように、前後を一行あける。4マス下げて、5マス目から打ち始める。文が続くときは、文頭を全て3マス目からに揃える。
 
例)   <1行あけ>
  □□□□キョーワ 1ニチ ルスニ シマス。アシタワ
  □□イマス。
           ムラノ ミナサマ    アカオニ
          <1行あけ>
 
 ただし、そのページ全体が手紙文等の時は、冒頭2マスあけで通常文のように打ってよい(その箇所を本文と区別する必要がなく、そこまで子どもは気づかないため)。
(2017年6月16日改訂)