全盲大学生海外初一人旅、コスタリカ環境保護ボランティア紀行 その3

度々私事で恐縮ですが、今春、全盲の娘が海外初一人旅、コスタリカに環境保護ボランティアに行ってきました。その紀行文が『点字ジャーナル』に連載されています。連載第3回目、よろしければどうぞ読んでやってください。
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★20歳の春、忘れられない3週間 in コスタリカ★

(3)モンテ・ベルデ

最初の週末を利用して、ほかのボランティアたちと、この国屈指の観光地であるモンテ・ベルデ(Monte Verde)自然保護区を訪れた3泊4日の旅は、私のコスタリカ滞在の中でも一つの異色の経験となった。地元人ではなくヨーロッパ人と行動を共にし、ボランティアではなくツーリストの視点でこの国を見たからである。めくるめくように楽しく、大いに考えさせられた時間でもあった。
金曜の午後、スタッフが最寄りのバス停まで車で送ってくれた。ところが降ろされた場所にあったのは、大きな樹が1本だけ。「バス停は?」ときくと、「この樹がバス停だよ。これはマンゴの樹で、ひと月ぐらいしたらおいしい実が熟すんだ」という答えが返ってきた。マンゴの樹に止まるバス!まるでジブリ映画にでも出てきそうではないか。こんな愛らしくてエコな発想が、こともなげに実現してしまうこの国に、改めて惚れずにはいられなかった。
熱帯雲霧林と呼ばれる1年中霧につつまれたジャングルの中を、吸い込まれそうな静寂に圧倒されながら歩いたハイキング、犬も猫も自由に出入りするスーパーでの朝ごはん調達など、楽しい思い出のつきないモンテ・ベルデだが、なんといっても忘れられないのが2日目の巨大ロープアスレチックだ。背中に着けたハーネスのフックでうつ伏せに滑車に吊られ、ジャングルの上最高250mの高さを、2㎞にわたって文字通り飛んで行くのである。自分の周りに巻き起こる風と、体にくいこむハーネスのせいで、満足に息もできないまま、ごうごうという音の向こうに自分の悲鳴をかすかに聞く最初の数秒が過ぎると、しかし、辺りを感じる余裕がうまれる。運よくめぐり合わせた霧の晴れ間に、冷たい風と暖かい日光を浴び、小鳥のさえずりをはるか下に聴きながら、手足をグーンと伸ばしたり、ギュッと縮めたりして飛んでいく爽快感と言ったら!思い出すだけで今でも鼓動が早まり、肌が泡立ってくる。
そして、スーパーマンと名づけられたその飛翔の最後には、60mの高さをほぼ垂直に落ちて行く、最後にして最大の冒険が待っていた。ただ滑車に吊られて運ばれて行くのとは訳が違う。ひとたび橋板をけったが最後、ロープの長さがいっぱいになるまで、重力に従って猛スピードで落下して行くのである。一瞬内臓が持ち上がるような感覚があり、本当に死ぬかと思った。しかし終わってみるとどうしようもなく嬉しさがこみ上げ、私はその朝ちょっとしたいさかいがあったことも忘れて、もう一人の女の子と息を弾ませて抱き合った。
その彼女はデンマーク人、もう1人一緒に行った男の子はドイツ人。ホステルで出会った観光客も皆ヨーロッパ人で、彼らと過ごすなかでたくさんの気付きを得た。たとえば、彼らにとって政治の話題がいかに身近であるかについて。観光客同士キッチンで食卓を囲むと、「今までコスタリカのどこに行ったの?」の次には、「このまえのテロについてどう思う?」となるのだ。日本人が韓国の人に出会ったとき、おいしいキムチの話こそすれ、最近の日韓情勢について話そうと思うだろうか。日本や世界が抱える山のような課題は、まずそれらをどれだけ自分事として捉えられるかに、その解決がかかっているような気がした。
また、コスタリカにいるのにコスタリカ人の観光客にほとんど出会わない不自然さから、理想的に見えたこの国の目玉産業エコツーリズムに関して疑問を抱くことも出来た。外国人観光客に大人気の浅草でも京都でも、日本人の方が少ないなんてことはありえないのに、ここではなぜ?入場料などの費用が、いわゆる観光地価格に設定されているからだろうか。そういったお金を、地域の自然保護と経済活性化に当てるという、エコツーリズムの目的を考えれば、長い目で見て地元にも利益があるのだと思う。でも、こんなに素晴らしい自然とわくわくする冒険が、もしほかでもない地元の人たちにとってアクセスしづらいものなのだとしたら、こんなにもったいないことはない。
ハイキングコースの麓のお土産屋さんで買った、カラフルなハチドリのストラップを触りながら、あの強烈な4日間を改めて思い返す。母語と変わらないなめらかな英語で、何事もはっきりと口にするボランティアたちと、四六時中一緒にいるのは、刺激的なあまり正直辛いときもあった。でも、いやだからこそ、モンテ・ベルデの雄大な自然のなかで、私の世界もまた大きく広がったのだった。(次号に続く)

 

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